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愛がなければ視えない。多分。
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1月31日 /言峰教会の日常~英雄王と朝食を~

「願わくは父と子と聖霊とに栄えあらんことを。
 はじめに在りし如く今もいつも世々に到るまで。Amen」


 十年間欠かしたことのない朝の祈りを終えて、私は礼拝堂を出た。
 自慢ではないが、私は生まれてこの方寝坊をしたことがない。早起きは三文の徳などという抹香臭い信条を掲げているわけではなく、ただ単に――そう、あえて云うならそれは体質のせいである、とでも説明すべきか。どれだけ夜更かししても朝同じ時間に起きるようにプログラミングされているのだろう。あまり寝なくても良い体質というのは有難い。養父もまた、いつ寝ているのかわからぬような人だった。
 血は繋がっていなくとも、共に起居していれば、似なくても良いところが似てしまうのかもしれぬ。
 尤も――。
 この男には、肖りたい美点などただのひとつもないが。
 居住区の二階。最も日当たりの良い部屋を占領している我が家の居候殿は、寝台の上で猫のように丸まったまますやすやと眠っていた。
 そう――これがただの人間ならば、私もこれほどまでに腹は立たないと思う。
 こいつは。
 このやたら金ぴかで態度だけは三人前くらいデカい我が家のタダ飯食らいは。
 人間ではないのである。
 サーヴァントと呼ばれる英霊――つまるところ、死者である。
 死者に眠りは不要だ。寝なくても良いし食べなくても良いしテレビを見たりゲームを全クリするまで徹夜したり外に遊びに行っては背中に刺青のある人種と意気投合して飲み交わしてくることも、まったくもって、必要ない。無意味だ。所詮は亡霊なのだから。
 そんな無駄の塊が安穏と眠っているのを見るにつけ、私は大層腹が立って仕方がないのである。
 全国の勤労学生に土下座して詫びろ。特にこの私に。
 怒りに任せて毛布を剥ぎ取った。


「……う……うぅー……」


 毛布の端をつかみ損なった手が力なく落ちた。
 まだ寝る気か、この金ぴかめ。


「シ、ロぉ……あと、ごふん……」
「じゃかァしい。テメエの都合なぞ知ったことか、アホンダラ」
「うぅ……ぁぅぅー……」


 頭を抱え込んで益々縮こまる金ぴかニート。


「……しろぉの……ばかぁ……」
「おいコラ。馬鹿とはなんだコラ。泰山のマーボ食わすぞコラ」
「うみゅー……まーぼは、むりぃ……」
「俺だって朝からマーボなんて食いたくねーわ。いいからとっとと起きろボケナス」
「……にゅぅぅー」


 どうしてこいつはこう、寝起きが悪いというか。
 寝起き別人なんだろうな。
 むっくりと上半身を起こすと、ふあああと間の抜けたあくびをしつつ体を伸ばした。益々猫っぽい。


「ふ……みゅ。それほどまでに我と朝餉を共にしたいか。クク……まったくもって愛い奴よ」


 あー……なんかいつも通り自分に都合の良いように解釈してるけど、それで丸く収まってくれるならいいや。訂正すると面倒臭いし。
 数年前、毎日毎日寝坊するこいつを起こすのに嫌気が差して、起こさずに登校したことがある。そしたらこの金ぴか、何を考えたか昼頃に学校に現れて、当然のように私を掻っ攫って教会に帰るなり、メシを作れとほざきやがった。チンして食えと書いた置手紙がよほど腹に据えかねたらしい。こいつは私のことを自分の料理番か何かと勘違いしている。当時養父は生きていたし、出張中でもなかったわけだが、そんな暴君の悪行を止めるどころかニヤニヤして一部始終を傍観していた。息子の平穏な学校生活が阻害されることが余程愉快らしい。まったく、この教会にはろくな連中がいない。
 毛布を畳んでベッドに戻した私の背に、金ぴかニート王は当然のように引っ付いて来た。


「それでシロウよ。いちごジャムは入手したのであろうな?」
「あ? マーマレードで我慢しろよ。あれ信者さんにたくさんもらって余ってンだ。俺だけじゃ消費しきれん」
「な――何ィ!? この我の命に背いたのかッ! 刎頚に値するぞ、下郎ッ!」
「馬鹿なこと云ってると、もうベーコン焼いてやらんぞ」
「……むう」


 おとなしくなったか。やれやれ。
 図体は私よりデカいくせに、云ってることはまるで子どもだ。どちらが年上かわかったものではない。
 ――まあ。
 英霊に年齢云々の話を持ち出すのも無粋か。
 サーヴァントである限り、年は取らない。そもそもこいつは死んでいるのだから、現世の時の流れになど左右されない。
 十年経っても、こいつはちっとも変わらない。
 その外見も――内面も。


 ――綺礼よ。我はこれを飼うぞ。


 それこそ、私にとっての始まりの言葉だ。
 世界の始まりが神の言葉によるものならば、私の始まりはこの英霊の言葉であると云っても良い。光あれと云った我らが主に比べれば、なんと低俗な物言いかと頭を抱えたくもなるが――その方がこいつらしい。
 その頃の私は年端も行かぬ子どもで。
 その頃のこいつは、私にとっては余りに眩しい存在だった。
 人間離れした容姿の持ち主であるのは言わずもがなだが、何よりその言動がこいつを尊貴なモノたらしめている。生まれながらにして万物を傅かせる宿命を負っているモノは、その一挙手一投足で世界を支配する。
 だから、その言葉に一般人たる私が抗えるはずもない。
 そして、本来こいつを止めて然るべき養父も、いつもの如く悪ノリしたのだ。


 ――喜べ、少年。
 ――今日から君の名は、言峰士郎になるのだから。


 私はその日。
 ■■士郎から。
 言峰士郎になったのだ。
 即ち、言峰士郎は十年前に生まれた。
 言峰綺礼を養父とする、言峰教会の跡取り――それが、私、言峰士郎の立ち位置である。


「ギルガメッシュ」


 金ぴかの英霊は、台所に立った私にいまだ引っ付いている。こいつはクラス名である「アーチャー」と呼ばれるよりも、真名で呼ばれる方を好む。聖杯戦争中ではないのだから、殊更隠す必要もない。
 もっともこいつは聖杯戦争中であろうと、真名を秘匿すべきなどと微塵も思わぬだろうが。


「邪魔だ」
「気にするな」
「邪魔だ」


 益々私にしがみついてくる我が家の英霊。毎日のことながら鬱陶しい。
 ギルガメッシュは私の首筋に顔を埋めると、ぽつりと呟いた。


「――夢を見た」
「ふうん」


 卵を割りながら、私は上の空で相槌を打つ。


「懐かしき友の死ぬ夢だった」
「ふうん」
「最近頻繁に見るのだ」
「ふうん」
「しかも、同じ場面を」
「ふうん」
「……シロウ」
「ん?」


 溶き卵をフライパンに流してスクランブルエッグにしながら、私はギルガメッシュのたわ言に付き合っている。


「もうすぐ、綺礼が死んで一年になる」
「そうだな」
「……シロウは、夢を見ないのか」


 なんだかよくわからんが、今日は殊更元気のないギルガメッシュである。
 仕方ない。寛大な私はダウナー気味の英霊のために、残っていたベーコンを焼いてやるとしよう。これでストックが切れるから、今日の帰りに買ってこなくては。


「見ない。常に熟睡だ」
「……。まったく何なのだ、おまえら親子ときたら……」


 ぶつぶつ。
 ううむ。なんとなく不本意だ。


「俺と綺礼をひとくくりにすんじゃねーよ」
「おまえら半端者は二人で一人前で充分であろう」
「……ムカつく」
「図星だな」


 ふふん、と鼻で笑うギルガメッシュ。


「ベーコンエッグだな、シロウ」
「ああ。ベーコンエッグだ」
「シロウだいすきだ」
「うん。知ってる」


 食べ物で機嫌が直ってくれるなら安いものだ。……猫に餌付けしてる気分だが。
 フライパンの中身をあけた大皿を背後に向かって突き出すと、ギルガメッシュは嬉々として受け取った。トーストを皿に盛り、マグカップ二つに淹れたてのコーヒーを注ぐ。言峰家はコーヒー党である。そのため、紅茶党である我が幼馴染からは常々痛烈な悪罵を浴びせられている。我が幼馴染はティーバッグの紅茶すら認めぬ生粋の紅茶キ●ガイだ。正直引く。


「シロウ。これが件のマーマレードか?」


 テーブルの上に置いてあったビンをしげしげと眺め、ギルガメッシュは口をへの字に曲げた。


「食わず嫌いはよくないぞ」
「我のいちごジャ――」


 問答無用。
 マーマレードをひとさじ掬い、そのスプーンをギルガメッシュの口に突っ込んだ。


「――む」
「手作りだから甘さ控えめで悪くないだろ?」
「苦い」
「バカ、おまえ、その苦味が良いんじゃねーか」
「これはシロウに下賜する。我はピーナッツバターで良い」


 ずい、とマーマレードのビンをつき返して、ギルガメッシュは冷蔵庫に向かった。
 ――クソ。任務失敗か。子ども舌の英霊にマーマレードはすこぶる不評である。
 まあ仕方あるまい。この程度は予想の範囲内だ。残り二ビンは一成にでも押し付けるか。
 タッパー片手に戻って来たギルガメッシュは、上機嫌にピーナッツバターをトーストに塗りたくった。


「シロウ。ピーナッツバターもそろそろ空だぞ」
「わかった。買ってくる」
「いちごジャムも」
「わかった」


 そんなにいちごジャムが大事か。


「……俺は、おまえがサーヴァントだということを時折失念するよ」


 む、とトーストをくわえたギルガメッシュが眉根を寄せる。


「……。正確にはサーヴァントではなかろう。我を律する令呪もなければ、マスターから魔力供給を受けているわけでもない。この身は既に受肉した英霊だ」
「ホント、こうやってると普通の人間だもんな」
「それは違う」


 もしゃもしゃとトーストをかじりながら、ギルガメッシュは器用に喋っている。


「我は聖杯の中身に触れたから、現世にこの身を留めていられるのだ。我が受肉した原因たる聖杯そのものが消滅すれば、我もまた英霊の座に還るのだろう」
「魔力を得ていれば、永遠に繋ぎとめられるってわけじゃないのか」
「得られる魔力の質と量にもよるだろうが――聖杯に頼らず現界し続けるには、都市のひとつやふたつは潰す必要があろう」


 さらっとすごいことを言ってのけた。


「すごいんだな。聖杯って」
「フフフ――臆したか、シロウ?」
「いや。よくそんなもん作ったなって、感心しただけ」
「フム。まあ、あの魔術式は、最近の魔術師が作ったものにしては中々優秀だ。我の時代でも、あれほどの魔術式を構築できるものがいたかどうか」


 ギルガメッシュが手放しで誉めるとは珍しい。
 それほど、この冬木の聖杯が特異なものであるということなのだろうが。
 冬木は日本でも有数の、霊的に優れた土地である。
 今から二百年ほど前、この地に目を付けた魔術師の家系があった。
 ドイツの奥地を本拠とする、アインツベルンという名の錬金術師である。
 ラインの黄金に縁のある、名うての錬金術師であったアインツベルンは、聖杯を顕現させるに足る、霊的に優れた土地を探していた。アインツベルンの魔術師は、マキリ・ゾォルゲンというフリーの魔術師の紹介を得て、冬木の地に到ったのである。
 アインツベルン、遠坂、マキリ――冬木の始まりの御三家。
 二百年経った今も続く聖杯戦争の発端は、御三家間で起こった聖杯の奪い合いである。
 二百年前に創られたアインツベルンの聖杯は完璧だったが、ひとつ、大きな問題を孕んでいた。
 聖杯は、たったひとりの願いしか叶えないのである。
 それは当然といえば当然である、予想できて然るべきことであったろう。或いは御三家のどれもが、奪い合いになっても必ず勝てる自信があったのか――その辺のことは推測の域を出ない。
 いずれにせよ、そのときから、聖杯は奪い合われるものとなったのだ。
 この聖杯戦争には、もうひとつカラクリがある。
 聖杯を奪い合う魔術師は七名、その魔術師が使役するサーヴァントも七騎と決まっているが、聖杯を完全な形で顕現させる為には七騎のサーヴァント全員を釜にくべる必要があるのだそうだ。
 ――つまり。
 本当に願いを叶えられるのは、勝ち残った魔術師ただひとり。サーヴァントは只働きに近い。
 それを知った眼前の英霊は、マスターを裏切って養父の悪事に加担したのだとか。当時の養父は聖杯に何の望みも持っておらず、それ故己のサーヴァントを贄にしてまで聖杯を顕現させるつもりなどさらさらなかった――贄にされるなど言語道断であると思っていたギルガメッシュとは利害の一致をみたわけだ。
 尤も、全ては養父言峰綺礼の受け売りであり、真実かどうかは定かでない。その真偽を知る術は、私にはない。
 何を信じるか、信じないかは、私が決める。
 言峰綺礼の言など信用には値しない。あいつは大概嘘吐きだ。


「ギルは聖杯を見たんだよな?」
「触れたぞ。この手で」
「何モンだ? 聖杯って」


 ギルガメッシュはベーコンを口の中に詰め込むと、もきゅもきゅと美味そうに咀嚼した。


「願望機であろうな。悪性の」


 悪性の願望機とは。
 これまた面妖な表現である。


「元は万能だったのだろうが……アレの中には最早呪いしか残されておらぬ。しかも、かなり強烈なやつがな」
「なんでそんなモン奪い合ってンだ? 呪いなんか手に入れたってどうしようもないだろ」


 それがそうでもないのだ、とギルガメッシュが意地の悪い笑みを浮かべる。


「願望機としての側面は残っている。たとえばな、シロウ」


 ギルガメッシュは食べながら器用に喋っている。


「ここに、世界の恒久平和を願う男がいるとする。その男が万能の願望機たる聖杯の噂を聞きつけ、聖杯戦争を勝ち抜いたとする。当然、聖杯はその男の手に渡るだろう」
「まあ、そうだろうな」


 でもそれはガセネタということにならないだろうか。
 私の思考を見透かしたように、ギルガメッシュは肩を竦めた。


「そこが聖杯のあざとさであるぞ、シロウ。聖杯はな、それを手に入れた者の望みを尋ねるのだ。男は恒久平和を願うだろう。そして、聖杯はそれを叶える」
「なんだ。それなら別に、呪いなんかじゃないだろ。普通の願望機だ」


 ギルガメッシュはちっちっと指を振った。


「望みを叶える“方法”が悪性なのだ」


 方法、か。


「恒久平和と聞いて、シロウは何を想像する?」
「え? まあ……一般的に云ったら、戦争の根絶とか、武力の永久放棄とか?」


 私見は色々あるのだが、一般論としてはその程度であろう。
 まあそんなトコロであろうよ、とギルガメッシュが肯く。


「聖杯の思想は驚くほどラディカルであるぞ、シロウ」


 紅い双眸が。
 愉しそうに細められた。


「人は複数あるから争いが起こる。ひとりしかいなければ、それはまさしく恒久的な平和である」


 ――呆れた。


「そりゃァたしかに真理だが、やっちゃいかんだろう。それは」
「だからこそ呪いなのだ。あれは人を憎悪し人を殺すことにだけ特化した願望機――恒久平和を願うならば、願ったもの以外の全ての人を殺すという方法を以って、願いを叶えることだろう。故に我は悪性だと云ったのだ」
「なんでそんな厄介なモンがまだ残ってンだよ」
「時が経てば杯が満ちるようにできているのだ。そも、我に魔術を問うたところで始まらぬぞ、シロウ?」


 それもそうだ。


「――綺礼は」


 養父は、いったい。


「何を、願うつもりだったんだ?」


 さてな、とギルガメッシュが視線を逸らす。


「綺礼は最初から望みなどなかった。手に入れてから、考えるつもりだったのであろうよ」
「……おまえにも語っていなかった、ということか?」
「シロウには想像できぬだろうが、十年前の綺礼は空虚な男であったよ」


 私が思い浮かべる養父は。
 にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべる姿。
 空虚というよりは、悪意の塊みたいな男である。


「己の本性から目を背け、生になんら期待を抱かず、ただ淡々と――死んだように生きている男だった」
「そのまま死なせておけば良かったものを」
「まあそう云うなよ。ああいう手合いを放っておくと本当に死んでしまうからな……それに、中々の化け具合だとは思わぬか? 我の最高傑作と云っても過言ではないぞ」
「比較のしようがないからわからんが」


 死んだ今となっては問い質すことも叶わない。
 まあ、訊いたところで素直に答えるとは思えないが。


「てか、綺礼の性格の悪さはおまえのせいか」
「あれはああいう男だ。我は己の真の姿に向き合わせたにすぎぬ」
「おまえのせいか」


 大体においてこいつが元凶なのだ。まったくもって傍迷惑な英霊だ。


「なんでもかんでも、馬鹿の一つ覚えのように我のせいにするな。シロウ。おまえとて、綺礼の人格形成の一助となっているのだぞ」
「俺が? なんでさ」
「人とは、人によって創られるものだからだ」


 コーヒーを一口含んだ英雄王は、すっかり薀蓄モードである。


「よいか、シロウ。人は、ひとりでは人にはなれぬ。ひとりでは、獣と同じぞ」
「……エルキドゥのことか」


 そうだ、とウルクの王は重々しく肯く。


「我が朋友も、最初は獣と変わらなかった。人と交わり、人を識り、人に与えることで、人は人になるのだ」


 人はポリス的動物である、とはギリシャの哲人の言であるが。
 それより二千年も前に生まれている人間から似たような言葉を聞けるとは――王の中の王は真理をよくご存知で。


「社会がなければ人は生まれない、ということか」
「なに、それほど大きなコミュニティでなくとも構わぬ。極端な話、家族でも良いのだ」


 家族、か。


「……うちの場合は、家族ごっこだと思うがな」
「不服か?」
「いや。綺礼には、ごっこの方が似合う」


 ふふ、とギルガメッシュが幽かに嗤った。


「紛い物同士が肩寄せあったにしては、十年も続いたではないか」
「九年だ」


 ギルガメッシュはにやにやと笑みを深める。


「そうそう。あの綺礼を九年も飽きさせなかったのだからな。それだけは誇っても良いと思うぞ、シロウ」
「全然嬉しくねえよ」
「素直でないな」


 あんなクソ親父の遊興に一役買ったところで、何が誇らしいのだ、馬鹿馬鹿しい。相変わらず金ぴかは云っていることが意味不明である。


「シロウ」
「なんだね?」


 ギルガメッシュは既に笑みを消していた。


「我はずっと、おまえを拾った綺礼は幸運な男だと思っていたが――おまえは綺礼に拾われて存外幸運だったかもしれぬぞ」


 馬鹿馬鹿しい。


「あんな外道に引き取られた俺の、どこが幸運なのだ、たわけめ」
「よく聞け、シロウ。綺礼に拾われなければ、おまえは我と出会えなかった」
「だから?」
「綺礼に拾われなければ、我という最強の手札を得られなかったということだ。おまえは本当に幸運だ」
「……はあ」


 むしろ私という料理番を得たおまえの方が幸運だと思うがな。
 でなければ朝昼晩、養父に激辛マーボーを食わされていただろう。ざまァみろニートめ。


「そも、王の寵愛を一身に享けるなど、身に余る光栄であろうが」
「はいはい。おそれおおいことだ」
「シロウ」


 私が茶化すのにも取り合わず、
 ギルガメッシュはえらく真剣な調子で続けた。


「此度の聖杯戦争、あまりにイレギュラーが多過ぎる。なにやらきな臭い感じが拭えぬ……我は、おまえの身の安全を第一に考えさせてもらう」


 自分の云いたいことだけ云ってしまうと。
 ギルガメッシュはマグカップ片手にダイニングから出て行った。

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...言伝はこちらから。
金凛御礼SS四種類ございます。
(2013.1.3.更新)
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