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愛がなければ視えない。多分。
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※テメレア戦記二次


……。
ごめんなさい。
本当に、ごめんなさい。

擬人化です。

時系列は初任務後くらい。ローレンス×テメレア(人型)。

原作中では"竜"と表記されていますが、わたくしの信念に基づいて"龍"の字を使わせてもらっています。
大陸産ならいざしらず、中国産の稀少種に対して竜と呼ぶのはおそれおおい。


   * * *

「ローレンス……」

 柔らかな腕と柔らかな響きが心地良い。
 薄っすらと汗ばんで艶かしい白磁の膚に、まだ新しい鬱血の痕が残る。少年と青年の狭間にあるような不安定な体躯が幽かに震えた。
 ――何故、わたしは、こんなことを。
「ローレンス」
 それは。
 どんな美しい恋人から掛けられるより、甘く、切なく、響いた。

「……テメレア」

 そうだ、これは。彼は。
 ――私の龍だ。
 敷布の上をしなやかに流れる黒髪を手に取り、口付ける。彼の鱗と同じ、光沢のある豊かな漆黒。テメレアは蒼穹の瞳を細める。
「あなたは、黒い髪が好きなの?」
「きみのは、とても綺麗だ。――インペリアルは皆こうなのか?」
「ふふん、どうだろうね。ぼくも早く逢ってみたいよ」
「寂しいかい?」
 龍にも里心があるかどうかは定かでないが。
 私の手から自分の髪を奪うと、テメレアは唇を押し付けるようにしてキスをした。
「あなたがいるから、寂しくなんかない」
 真摯な眼差しに言葉が詰まった。
「本当だよ、ローレンス」
 ――何故、わたしは。
 己でも制御しきれぬほどの昂ぶりを感じていた。
 何故、これほど、いとおしいと思うのか。
 かつて、これほど、いとおしいと思ったことはない――イーディス・ガルマンに対してすら。船に乗っていれば、見目麗しい少年兵や海尉候補生を性欲の対象にする仕様もない佐官将官を見ることは少なくなかった。狭い船内に何ヶ月も閉じ込められていれば、そういう雰囲気になる者もある。彼らを軽蔑するつもりもないし、或いは、自らの行為を正当化するつもりもなかったが――。
 想定より遥かに早く、理性のたがは外れてしまっていたらしい。
「――ッう、ぐ――ぅ――ローレン、ス――ッ」
 苦しいに決まっている。
 必死に敷布を握り締めた手に、掌を重ねた。
 本来受け入れる為に出来ていない器官が、悲鳴を上げる。弓なりにしなった背をかき抱くようにして腰を進めた。息が荒い――私も、彼も。まるで永遠に感じられるような刻の中で。
「……ぁッ……ろー……れんす……挿入、った……?」
「ああ。もう少し」
 呼吸を整えながら、テメレアが苦笑した。
「……はあ……ぼくは。全然、駄目だね。……ローレンスも、女の子の方が良かったでしょう?」
「君だって、ハーコートのような女性キャプテンの方が良かったんじゃないか?」
「何、言って……! ッ……ローレンスの、バカ」
「挿入ったよ、テメレア。もう少し慣らそうか?」
 テメレアは不貞腐れたように横を向く。
「あなたの好きにしたらいいよ。ぼくはあなたのものなんだから」
「テメレア」
「何? ローレ――んうッ――ふ――ッやだ、ろぉ――ェん、んぅ――ッ!」
 口の中も、頭の中も、ぐちゃぐちゃだ。
 ――ぼくはあなたのものだ。
 ――あなたはぼくのものだ。
 龍と担い手の絆は、その言葉に尽きる。
「あ……ふ、ぁ……ローレン、ス……」
 互いを結んでいた唾液の糸が切れる。
 何かを求めるように、テメレアの左手が伸びた。
「……いいよ。動いて。あなたが気持ち良いように、して」
 指先が僅かに頬に触れたかと思うと、敷布の上に落下する。握り締められた龍の左拳を丁寧に解いて、指を絡ませた。テメレアは驚いたように目を瞬かせる。
「どうしたの?」
「わたしも、きみのものだよ、テメレア」
 ――知ってるよ。
 耳元で囁かれた声に、背筋が震えた。
 半端なまま留まっていた熱を限界まで埋め込む。
「ッん、深い――ローレンス――ぅッ」
 手の甲に爪が突き立つ――痛みすら、曖昧だ。
「……ッは、……ぅ……んッ、ろ……ろぉれん……す……ッぅ……」
 緩慢に腰を引く。肉の軋む音は体に直接響くようで、後頭部を思い切り叩かれたような眩暈を覚えた。
「ローレンス……ッあ、ぅ……やぁ……ッん……んぅ……やだ、ぁ……ろぉ、れんす……」
 誰よりも甘く、狂おしく、私を呼ぶ声。
「ひぅ……ッ、だめ、つよい、ぃ……いッ……こわれ、る……ッ」
「痛い、か……テメレア……?」
「ぅ……ん、ちが……ちがう、ろぉれんす……いい、から……すごい、いい……」
 逃れるように体を捩ったテメレアの背が、びくりと跳ね上がる。
 不安そうな瞳が此方を見上げていた。
「――今の場所が、いいのか?」
「わかんない……何が……ッあぅ!」
 屹立した雄から先走りがどろりと垂れる。
「なん、なの……ローレンス……?」
 戸惑う龍の額にキスをして、零れた涙の跡を舌でなぞった。
「今の……なんか……変な、感じ……」
 空いた手で私の頭を掻き抱くと、テメレアは途切れがちに囁く。
「ぼくの、体……おかしくなっちゃったの?」
「……よかった」
「え?」
 困惑を通り越して怪訝そうな表情に微苦笑を返す。
「きみにばかり、嫌な思いをさせているんじゃないかと――心配だった。なるべくきみの負担にならないようにと、思っていたけれど――抑えられないんだ。きみが、いとおし過ぎて」
 おかしくなってしまったのは――。
 きっと、私の頭の方だ。
 テメレアが切なげに微笑する。
「あなたは本当に律義だね、ローレンス。無理矢理奪ったって、ぼくは全然構わないのに。むしろ、そうされるべきなんじゃないかとすら思うよ」
「誰がそんなことを言っていたんだ?」
「ッ、……怒らないで、ローレンス。誰かから聞いたわけじゃない。龍にとっては、担い手が全てだから。あなたに求められなければ、ぼくは生きている意味が無い」
 ――そんな。
「そんなことがあるものか。きみはたくさんの人や龍に慕われて――」
「それじゃあ、意味が無いよ」
 ――あなたでなければ。
「あなたに必要とされれば、それでいい」
「……わたしが死んだら、きみはどうするんだ?」
 暗い予想が脳裏を過ぎる。
 テメレアは力強く応えた。
「言ったじゃないか。あなたを死なせやしない。どれだけ多くの人間が死のうと、あなただけは助ける」
「それでも、人には寿命がある。わたしは二百年も三百年も生きられない」
 テメレアは少し考えると、はにかんだように苦笑した。
「そんな先のことはわからないよ。でも、あなたがよぼよぼのお爺ちゃんになるまで、傍にいさせて欲しい。あなたが次の担い手を選んでくれるなら、ぼくはそれに従うよ」
 空軍にあって、そんな歳まで生きていられるだろうか――。
 いや、考えても仕方のないことだ。
「ねえ、ローレンス……」
 哀願するような声と共に、テメレアが僅かに体を捩った。
「ッぅ……あなたが、嫌でなければ……続けて欲しい」
「ああ。勿論」
「よかっ――」
 一際高い嬌声が上がり、瞳から大粒の涙が零れた。
「ぁぐッ……ぁ……あッ……んッぅ……もッ……もぉ、い、く……」
 敏感な場所を擦るたびに、限界を訴える声に甘さが混じる。
「もう、少し……待てるか?」
「ぅん、んッ、まつ……まつからぁ……ろぉれん、すの、すきに……してッ……」
 がくがくと頭を揺らしてから、テメレアは固く双眸を瞑った。
「ッは……きもち、いい……ろぉ……れん、す……?」
「――ッく」
 限界が近い。
「き、て……ろぉれんす……ぅ……もッ……なか、に……」
 腰を引き付けると、驚くほどすんなりと最奥まで挿入り。
 そのまま――吐精していた。
「う――ッ、テメレア?」
 龍の精液が腹を伝い落ちる。テメレアがすまなそうに目を伏せた。
「――ッ、ローレンス、まだ。――まだ、出さないで」
 慌てて引き止められるに任せて、テメレアと繋がったままベッドに横たわった。
「まだ……でてるから……ローレンスの」
「も――もう、いいよ。テメレア。きみが、汚れて――」
「ッふ……そんなこと、ないよ。なんなら……もう一回、する?」
「だが」
 言葉とは裏腹に――。
 萎えたものに再び熱が宿る感覚を覚えて、羞恥に二の句が継げなかった。
「……じゃあ、決まりだね」
 テメレアは嬉しそうに微笑むと。
 徐に私の上に馬乗りになった。

   *

 もたれかかっていた前足からずり落ちたらしく、口の中が酷く砂っぽかった。翼に守られた寝床は温室のように暖かいが、心地良い眠りを妨げた土の味に思わず眉間に皺が寄る。
 ――否。
 眠りを妨げたのは、地面に突っ伏して砂を喰っていたからではない。
 テメレアに悟られぬように翼をそっと持ち上げて、隙間から外に出た。夜明け前の深とした空気の中、とても爽やかにはなれない気分でがっくりと肩を落とす。
 ――思春期の少年か、私は。
 毛布をマントのようにして全身を覆い、悲惨な下半身をなるべく意識しないようにして営舎まで歩いて行った。幸い、誰かに遭う危険もなさそうだ。
 静かな営舎の二階に上り、下着と軍服を丸々替えると漸く人心地ついた。
 あれは――。
 本当に、彼だったのだろうか。
 ただの夢だと割り切ってしまいたい一方で、ただの夢だと断じたくない――相反する感情を持て余していた。

「――動かないで」

 命じられるまでもなく。
 縛られたように、動けなかった。
 背後から伸びた両腕が、
 胸のあたりで組み合わさる。
 ――知っている。これは。この手は。
 彼の両手だ。
「お願い。振り向かないまま、聞いて。あなたに見られたら、きっと魔法が解けてしまうから――」
 背に伝わる温もりと。
 苦しげに絞り出すような、声。
「困らせて、ごめんなさい。ローレンス」
 謝るようなことじゃない――。
 指一本動かすことすら叶わず、私は阿呆のように口を開閉させた。
「でも――ぼくはたしかに存在する。あなたの夢や妄想じゃない。ぼくは、ずっと、あなたを待っていた」
 組み合わされていた指が解けて。
 体温が急に遠ざかる。
「――それだけ言いたかった。ありがとう、ローレンス」
「テメレアッ」
 振り向く。
 案の定――そこには誰も居ない。
 ついに白昼夢まで見るようになったかと、自嘲するより早く――。
 階段を駆け下りて、営舎を飛び出した。
 数十フィートの距離が余りに遠い。
 程なくして、黒い小山が見えた。
 そこには。
 穏やかな寝息を立てている龍が居た。
 酷く――。
 安堵すると同時に疲労を覚え、龍の前足に寄り掛かった。私などお構いなしに熟睡する龍は小さくくしゃみをすると、私の方に頭を寄せて起きる気配は無かった。

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おぼえがき

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...言伝はこちらから。
金凛御礼SS四種類ございます。
(2013.1.3.更新)
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